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現代ビジネス-2012年10月23日掲載記事

政府と日銀は政策協調して一刻も早いデフレ脱却を! 日銀はモードを変え、「非伝統的」政策をも含め、あらゆる政策を総動員すべきだ(現代ビジネス)

 48年ぶりに東京で開催されたIMF・世銀総会に合わせ来日した、銀行、投資銀行、ファンドなどの経営者、アナリスト達と意見交換をする機会に恵まれた。驚いたことに、最後の記憶が定かではないほど久しぶりに日本に対する視線が熱かった。

 今なぜ日本に対する期待感が高まっているか、といえば、何も動かなかった過去3年間の経済政策の空白に区切りをつけ、漸く日本経済にも変化が起きそうだ、というのだ。

 より具体的には、まず、民主党政権が終わり、安倍晋三新総裁率いる自民党が政権奪還し、大胆な成長戦略をとるのではないか、との期待が最も大きい。そしてほぼ同様に大きな期待がかけられているのは、来年4月の日銀総裁の交代だ。今度こそ本格的な積極的金融政策を断行し、デフレ脱却を図ってくれる人に替わるのではないか、という期待だ。

政府と日銀が政策協調して一刻も早いデフレ脱却を

 安倍晋三総裁が自民党内に設置する「日本経済再生本部」が10月24日から本格稼働する。私も微力ながら事務総長代行として本部長である安倍総裁を支えていく所存だ。

 安倍氏は総裁選を通じて、「一日も早いデフレ脱却と成長力の底上げで所得向上、雇用の創出に全力で取り組む」と成長戦略推進を訴え、経済を最優先課題とした。政府と日銀が政策協調して量的緩和に取り組んで行くべきだと主張し、日銀が背を向けるならば、日銀の強い独立性を規定している日銀法を再改正することを辞さないという強い立場すら、時に明らかにしてきた。

 政府と日銀が政策協調して一刻も早いデフレ脱却を目指すというのは、今後の自民党の経済政策の柱になるだろう。この点、私も全く同意見である。そして、その協調する政策の中身は、政府も日銀も、「非伝統的」な政策、すなわち、これまでやったことのない政策をも大胆に導入しなければならないはずだ。

 なぜならば、「失われた20年」に表れているように、日本経済の直面する問題は長期化しているうえ、最近の株価を見ても、欧米の株価水準がリーマンショック前の水準を1〜2割上回っているのに対し、東京の株価水準は依然としてショック前の7割程度の水面下にとどまっていることに見られるように、根深く、深刻だからだ。

 要は、産業構造問題であり、競争力問題であり、そしてその根っこにある教育や規制、企業統治システムなどから来ている複合危機であり、根本解決は並大抵ではない。

日銀法上の目標は何も達成できていない

 日銀の使命は何か。日銀法の第2条にはこう書かれている。

「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」

 ではこれまでの日銀はその理念を達成しているか?

 第一に「物価の安定」だが、消費者物価は持続的に下落しており、失格だ。一方、国内総生産(GDP)も縮小が続いており、とても「国民経済の健全な発展」とは程遠く、これまた失格であり、結局、日銀法上の目標は、現在の日銀の下では、いずれも達成できていない。

 成長率や物価上昇率がマイナスになれば、政策金利を「マイナス金利」とすることは不可能であることから、財市場での均衡をもたらす名目金利(自然利子率)より政策金利の方が高い状態が続くことになる。つまり、金融緩和が不十分ということになるわけだ。

 論理的には、日銀がやるべき事は、「政策金利を下げる」か「予想(期待)物価上昇率を上げる」か「自然利子率を上げる」かのいずれかの政策、もしくはそうした政策の組み合わせということになる。

量的緩和が不十分であるという認識に欠けている

 政策金利をマイナスにできないため、実質的な政策金利をこれ以上引き下げるには、量的緩和を大胆に行うしかない。日銀総裁が「無条件緩和」を宣言するなど、市場に強いメッセージを発することが必要だ。また、長期国債の巨額購入や、様々な資産の大量購入など、まさに「非伝統的金融政策」にまで踏み込むことが大事だ。為替も円安に向かう筋合いだ。

 予想(期待)物価上昇率を上げるには、きちんとした物価上昇率目標を設定することだ。いわゆる自ら設定するインフレターゲットである。安倍総裁は2%程度を示唆している。ただし、ここで重要なことは、目標を掲げたら、それを必死で達成しようとしている「本気度」を市場に伝えることである。

 これまでの日銀は、例えば本年春のように、市場が日銀の緩和に向けての真意を疑うようなマネー供給の不十分さや目標達成への決意に水をかけるような総裁発言があってはならず、中央銀行総裁は、「偉大なるコミュニケーター」で居続けなければならない。

 一方、財市場の均衡金利を上げるには、生産性向上、企業再編、雇用促進等への融資優遇制度や、財政面でもこれまでやったことのない「非伝統的」な産業構造転換、競争力強化策を集中導入していくしかない。

 例えばiPS細胞研究でノーベル賞を受賞された山中教授の研究に追加予算を付与するなど研究開発支援の徹底、大学・大学院改革の推進、加速度償却、さらには、「法人税等ゼロ特区」の全国展開、「東京一極集中解消税制」創設といった投資優遇税制などである。

 ところが、日銀を見ていると、量的緩和が不十分であるという認識に、欠けているとしか思えない。日銀はデフレ克服に国債の購入といった量的緩和は効果が薄いと主張する。だが、日銀総裁が「とことんやる」というメッセージを市場にきちんと出すだけでも、デフレ脱却への道が開かれると思う。今は総裁と市場との対話が欠如していると言うほかない。

「非伝統的」政策をも含め、政策を総動員すべき

 白川総裁は今年4月21日に行った米国のワシントンでの講演で、「中央銀行の膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えに従えば制御不能なインフレになる」と述べた、という。長引くデフレへの世の苛立ちを踏まえると、何とも間の悪い発言だった。そして今でも総裁の本音は同様と見られている。

 さらに日銀が実施してきた量的緩和姿勢が、戦力の逐次投入的なやり方に終始した上に、何よりも説明がうまくなかった。国内外の市場や経済界、そして国民からの信頼をすっかり失ってしまっている。日銀の独立性が尊重されるには、国民からの「信頼と信認」が不可欠だが、日銀はそれを失っている。だから、与野党を問わず日銀法改正の声が高まる一方なのだ。

 経済が低迷しているときに消費税率を引き上げても、経済を一層冷え込ませ、同時に肝心の税収が増えないことはすでに証明済だ。1997年に税率を3%から5%に上げた際、所得税の引き下げとセットにしたため、税収的には中立なはずだった。ところが税率引き上げ前に54兆円あった税収は翌年50兆円を切ったのである。以後15年間、産業構造転換が全く不十分ゆえに競争力を失い続け、未だに当時の税収にすら追いついていない。

 前回の安倍政権では日本経済の構造改革を推し進めることで、成長を目指した。その結果、日経平均株価は1万4,000円台から1万8,000円台に上昇、税収も51兆円まで増えた。それが21世紀に入ってからの最大の税収である。

 白川総裁の5年間の任期は来年4月までである。残り半年。与野党に広まる日銀法改正の声を前に、デフレをきちんと克服した総裁として歴史に名を残すためには、法改正の前にまだまだやれる事がある。日銀はモードを変え、「非伝統的」政策をも含め、あらゆる政策を総動員すべきだ。市場と向き合って経済発展に向けて、思い切り明確なメッセージを出すことが何よりも大事だ。日銀にとってラストチャンスだし、それはほとんど日本経済にとってもラストチャンスと言ってもいい。

 現総裁にその気がないままでは、来年4月の後任人事で、柔軟で、政府とも、市場とも、国民とも、世界とも対話を行い、経済の健全な発展を真に追及しようとする人を選ぼう、ということになろう。そして、それでもダメとなって日銀法改正に突入することは、先進国の矜持として、絶対避けたいものだ。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33862