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週刊東洋経済「視点」-2003/04/21 号

「真実を映す鏡」を直視しよう

深刻な株価下落を前に、既に実施済みの持合株式の時価会計を停止したり、2005年度から適用予定の工場設備などの減損会計の導入延期を法律で行おうとの声が聞かれる。いずれも保有資産の含み損の表面化を懸念するがゆえである。
確かに、日本的な経営モデルを前提とすると「一時的な株価変動に事業活動が振り回されるのは納得がいかない」という経営者の悲鳴や、「デフレ経済において将来の利益の客観的な予測は困難」という気持ちは分からないでもない。しかし、あくまで会計はできるだけ真実を映そうとする鏡にすぎない。その鏡をどれだけいじっても、真実を変えることはできない。むしろ、経営者が自社の現状と将来をどう判断しているかを、包み隠さず率直に明らかにして、経営者の能力や姿勢を投資家に問うことが、経済を強くすることにつながる。

例えば、半導体メーカーが多額の投資でDRAM設備を作っても、海外ライバル会社がより高性能で廉価の半導体を量産し始めれば、設備は一挙に陳腐化して将来収益を失う。会計上何もしなくとも市場はこの真実を織り込んで株価は下落するし、仮に真実を隠そうとすれば、実態以上の不安を投資家に与える。
減損会計は、事業の収益性や競争力に関する重要な事実を先送ることなく反映させ、投資家らに真実を見せる鏡である。英米系の国のみならず、大陸欧州でも導入が決まっている。これは金融商品の時価会計とは別物であり、バブル崩壊後の地価下落処理に限られる問題でもない。

既に減損会計を導入した日本のある経営者は「膿と化した事業用固定資産は、減損会計で即座に処理し、経営の健全性を維持することこそが企業経営の要諦」と喝破する。まさに減損会計とは、わが国企業の競争力回復に不可欠な道具立てである。この導入延期は経済再生とデフレ克服を遅らせることになりかねない。

白雪姫に出てくる継母のように、真実を正直に映す鏡に不満を持つ人は、どのように評価されるだろうか。時価会計の停止を国内活動をしている会社だけが選択すれば良いといっても、世界に占める日本の経済規模を考えれば、決して言い訳にはならない。日本株式の約二割は外国人が保有しており、長い目で見て国際的な信用失墜で日本政府と企業が払う代償が大きいことを忘れてはならない。

政治には、目先にとらわれず、冷静に事の本質の先々を見通す力が必要だ。本源的な問題に目をつぶり、収益力やコーポレートガバナンスが弱まった企業を延命させるのは、飛行機を目的地に到達させず、空中旋回を強要するようなものである。飛行機はいずれ燃料切れで墜落する。日本の製造業が生み出す循環的な景気回復力は、この一〇年間で弱体化しつつある。一日も早い日本経済再生を目指すなら、政治は「真実を映す鏡」から逃げずに真実を変える王道を進むべきだ。

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