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中央公論3月号掲載記事(2月10日発売)

【緊急提言】日本は何を間違えているのか「恐れず正面突破の王道を歩むしかない」

特集「国有化日本-出口のない経済危機管理」

掲載記事より

政権幹部などの発言を聞くと、「デフレを克服」して「構造改革を断行する」と、両者を別の問題のように捉えている者が多い。

このデフレと構造改革が別々のもの、という認識が間違いの元である。デフレは結果であって原因ではない。日本が大不況に陥った原因は、構造改革が必要なほど、日本が根深い問題を抱えていることに尽きる。つまり、国内で供給過剰と需要不足が恒常的に続いていることが問題の本質だ。

例えば、従来型の陳腐化した産業では企業数が多すぎるから供給過剰になる。中国からの輸入増加で価格下落になっているというが、高賃金の日本の企業が、中国でも作れる低い付加価値のものを国内で割高な値段で作り続けることが問題なのだ。日本国内の産業構造調整のスピードが、世界の変化に追いついていないことが核心である。

このモノとサービスの世界における構造改革は、次の三点に尽きる。(1)付加価値の低い事業は整理する、(2)付加価値の高い事業は強化する、そして(3)二十一世紀の世界の人々の暮らしと気持ちを豊かにする需要を創造することだ。何も難しく考えることはない。「売れ筋の商品開発」、例えば、医療福祉、バイオ、情報通信、教育、観光、脱エネルギー、国富としての住宅ストック、誇りを持てる美しい街並み、環境技術など、今日からでも実現できるテーマはいくらでもあるのではないか。モノとサービスの世界での新たな需要創造へのチャレンジこそ、国を挙げて取り組むべき構造改革の本丸である。そのためには財政支出の強化や規制の撤廃・再定義をためらうべきではない。

小泉改革の足らざる点は、最初の淘汰だけを掲げて足踏みしているようにみえることだ。淘汰だけの後ろ向き改革ともとられかねない。例えば、道路や郵貯を民営化するにしても、大前提は「ビジネス化」することだ。儲からない事業分野を民営化しても失敗する。どうやって儲けて世の中に利益を還元するか、というビジョンがないから、後ろ向きの債務処理ばかりが民営化の目的になる。これでは本末転倒だ。儲からないままで民営化せよといわれれば、人々が抵抗するのは当然である。本当の前向き改革であれば、儲かる分野に自由に人とカネを移そうぜ、というのが基本だ。今は道路会社だが、三十年後には情報通信ネットワーク会社に大化けするかもしれないぞ、という夢がなければ、改革のエネルギーは生まれない。
同じように、ダメな銀行を退場させるのは結構だが、同時に三十代、四十代の経営者が率いる新しい金融機関をどんどん創設すべきである。また何よりも、個人の株式課税をゼロにするとともに、日本版SECを創設して、証券市場に信頼を取り戻し、個人資金の奔流を築き上げることも急務だ。さらに、積極的な国有財産売却も重要だ。売却益による歳入増加だけでなく都市再生に資する建設投資も増加する一石二鳥の政策である。

もちろん、経済学の教えるとおり、皆が一時間早く起きるよう努力するのは確かにつらいことで、時計を一時間戻す方がはるかに楽だ。つまり、モノとサービスの世界での構造改革の手綱を緩め、為替の世界での調整を図る誘因は常に存在するし、私も必ずしも否定しない。だが、官民が過剰債務を抱え、経営スタイルが非効率なままの今の日本企業では、時計を戻してせっかく一時間「早起き」しても、また一時間居眠りする可能性の方が高い。ましてや、自国の利益のために、多国間で貴重な「一時間」を奪い合うのが国際通貨交渉である。日本が得た「一時間」のために、何を相手国に代償として差し出すのか、そこまでを考え抜いた戦略が要る。国内産業の競争力強化に努力を傾注することなく、為替や通貨供給量に頼ろう、などという「逃げの政治」を国民は求めていない。

いまや、韓国のサムスングループの時価総額は、日本の大手電機五社の合計(日立、東芝、NEC、富士通、三菱電)と、ほぼ同額になったそうだ。また、同グループでは役員の三人に二人が四十歳代以下に若返ったという。危機意識さえあれば、わずかの間にここまで変わることができる。円を安くして、通貨供給量を増やして、これ以上日本企業の価値を下げることが正しいことなのか、正常な社会人であれば、答えは分かる。日産自動車が再生したのは日銀が通貨供給量を増やしたからではない。ゴーンさんが陣頭に立ち、シビアな再生計画を実行し、皆が努力をして、売れる車を効率的に生産できるようになったからである。

この国はいつから「デフレ克服が最重要目標だ」などという「素人国家」に成り下がったのか。重病人を前に病巣を探り当てることなく医者が「熱を下げることが目標だ」というに等しい。対症療法に終始し根本的治療を怠る。これでは「ヤブ医者」どころか「ニセ医者」だ。わが祖国を「医療過誤」で見殺しにするわけにはいかない。

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