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FINANCIAL Reguration 2014 SUMMER (2014年5月30日発行) 掲載記事

今後の日本経済と金融機関が果たすべき役割

金融最前線スペシャルインタビュー1
アベノミクスの第一弾は成功しているように見えるが、今、どうやって日本経済を本当に強くできるかが試されている。
金融事情に明るい塩崎恭久代議士に、日本経済の今後と、金融機関の果たすべき役割を聞いた。

金融機関のガバナンス強化が日本を強くする

今後の日本経済と金融機関が果たすべき役割

――まず日本経済全体につきお聞きしますが、1月31日の衆議院予算委員会で塩崎さんは代表質問に立ち、安倍首相に財政再建や経済活性化への覚悟を聞かれていましたが、その狙いはどこにありましたか。

塩崎 今回の代表質問では、「本気で日本経済を変えよう、強くしようと決意されているのですか」と、そこを聞いているわけです。経済が強くなれば、財政問題は必ず改善します。あとはムダなお金は使わないと、規律を守って対処していけばいいのです。
 最も大事な肝は日本経済、つまり企業がもっと強くなって、働く人たちの生活水準が上がっていくことです。結果として、その中でやりくり算段をつけるのが財政の役割です。財政ではプライマリーバランス(基礎的財政収支)の2020年達成とかいろいろと言われています。これは一つの中間目標であり、財政改革だけで日本経済が再生するわけではありません。財政再建は経済が再生することが前提です。

――日本経済を強くする面では、自民党は日本経済再生本部(塩崎恭久本部長代行)が、昨年5月に、中間提言を出しましたが、その趣旨は?

塩崎 日本の産業構造の大転換が必要だと思います。我々は、それをずっと言い続けてきたつもりです。そこで、日本経済を強くするために、1地方再生なくして日本再生なし、2「アジアNo.1の起業大国」へ、3新陳代謝加速、オープンで雇用創出、4未来の「ヒト」「ビジネス」で付加価値創出、5女性が生き生きとして働ける国へ、の5つを柱とする中間提言を出しました。
 例えば、今回の「中間提言」の最初に「地方再生なくして日本再生なし」と出てきますが、ここで地方経済を再生させるポイントは、金融です。提言では、「企業・経済再生型金融へのシフト」を指摘しています。この点について同提言では、「日本経済の再生を図るためには、金融機関は易きに流れることなく、企業再生に一段と力点を移すことが肝要である」と述べています。「易きに流れることなく」とは、問題を先送りしないという意味です。日本は間接金融の国ですから、金融機関が融資先企業に対してどう融資し、どう指導していくかがものすごく大事なことです。金融が変われば、日本は変わることができるのです。この提言(注1)を今年5月に取りまとめます。

日本の開業・廃業率を引き上げよう

――政府は2020年までに開業率・廃業率を倍の10%台にすることを目標にしていますが…。

塩崎 アメリカに比べ半分の水準にある日本の開・廃業率を倍に引き上げるのは、現状の政策ではともに力不足です。開・廃業率を高めることそれ自体は、新陳代謝が良くなることを意味し正しいことです。しかし、なぜ日本では開・廃業率が上がらないのか。その問題点を突き詰め、一個一個正しい手を打っていくことが大事です。企業再生を先送りしていた姿勢を改めていくことが求められていると思います。
 例えば、中小企業金融円滑化法が平成25年3月末で期限切れとなりましたが、我々は前々から止めると決断していました。金融庁も当初は躊躇していましたが、我々のメッセージはちゃんと受け取ってくれていて、平成25年度の監督指針を、ほぼこの中間提言の趣旨に見合った形に変えました。金融庁が何に注目するようになったかというと、銀行の経営方針にいい意味で関与していくことです。金融庁が金融機関
と対話して、その進路の手助けをしていく路線に変えました。
 こういう政策は何も、地域の企業を潰そうと言っているわけではないのです。そうではなく、問題を先送らないことが一番大事なことです。問題が出た時には、解決する。解決できないなら、答を出してくださいと申し上げているわけです。それをやることが地域の活性化につながります。

――問題が先送られてきた要因については、どうお考えですか。

塩崎 この点については、金融機関自身のガバナンスがきちんとしていなかったのではないかと、私はそう思います。問題を先送ることによって、本来その企業から得られるべき利子が取れない等の逸失利益がたくさんあるはずです。問題を先送りせずに解決して、収益を上げる企業に生まれ変われば、事業はもっと拡大するわけだから、融資も投資も増えると期待できます。

企業のガバナンスを高める独立取締役

塩崎 今、我々が主張しているのは、金融機関を含め全産業のコーポレート・ガバナンス強化の象徴として、独立取締役を導入することです。改正会社法での社外取締役設置義務付けは見送られたものの、設置しない場合には、社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務(explain)規定を省令から法律に格上げしました。また、その説明義務は書面ではなく、株主総会での口頭説明を義務付けました。同時に、東証上場規則等も改正され、「少なくとも(社外取締役を)1名以上確保するよう努めなければならない」となりました。この点、マスコミは、「日本への社外取締役導入義務化は先送り」と否定的に伝えています。だが、実体はそうではありません。
 今年1月31日の予算委員会で私は、谷垣法務大臣に、独立取締役について今回のさまざまな改正は、事実上、義務化したのに等しいのではないかと聞きました。谷垣大臣は、「各会社の個別の事情に照らして、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明できない会社は、もう社外取締役を置くことが強く促されることになる。そういう評価は十分可能だ」という趣旨の答弁をしています。

――金融機関の独立取締役導入については、どう考えますか。

塩崎 金融機関のガバナンスについては、さらに前に進む必要があると思います。金融庁の監督指針では「独立取締役を導入すべし」との姿勢を示していますが、我々は、まだ不十分だと考えています。昨年、みずほ銀行の問題が出てきて、委員会設置会社への移行を求める行政指導が行われました。
 だが、このままではモグラ叩きになることを危惧しています。もし、別の銀行で問題が起こり、その会社に独立取締役がいなければ、再び導入するよう行政指導する。しかしその形だと、もぐらが出てくるたびに叩き続けることになりかねません。
 全ての上場銀行、全ての銀行持ち株会社、およびその下の100%銀行子会社は、複数の独立取締役を持つべきであり、そのように銀行法を改正して独立取締役の導入を義務化すべきだと、我々は考えています。地域にあって金融機関は、地域経済の指導者ですから、他の企業の見本となる模範演技をする必要があるのです。

持ち合い株は取得機構を使って売却を

――塩崎さんは日本企業の株の持ち合いについても改善する必要があるとのご意見ですが、金融機関と企業の株持ち合いはどうご覧になりますか。

塩崎 金融機関には、「当社の株を持ってほしい」という企業からの要請は少なくないと思います。しかし、これを企業側から見ると、株を持ってもらった結果、「当社はこれで潰されずにすむ」と思いがちです。
 それに銀行が他社の株を持つことは利益相反なんです。融資先企業が問題を含んでいて「ここで解決しなければいけない」場合には、まさに易きに流れずに処理することが求められます。しかし株主の立場からすると、企業が処理されるとロスになるから、「それなら先送りにするか」と判断しかねません。まさに利益相反です。
 ドイツでは、銀行が株式保有を大幅に減らすことに成功しています。例えばドイツ銀行では、2000年12月期に271億ユーロあった株式保有高が2011年12月期には16億ユーロと、大幅に削減しています。ドイツでも、株式持ち合いの網の目の中心的存在は、銀行だったのです。実は、銀行のトップの方々とお話しすると、皆さん、「経営の変動リスクで最大のものは、株式です」と指摘されます。実際に持たざるをえないしがらみもあるでしょう。
 そこで銀行等保有株式取得機構(注2)を活用したらいいと思います。同機構は、2017年まで買い取れるのです。特にメリットは、銀行が同機構を使ったからといって、何の株を売ったか第三者にはわからないことです。我々は、同機構を活用して銀行は保有株を売却したらどうかと考えています。

――株持ち合いによる経営面への影響はどう見ていますか。

塩崎 ガバナンスの不徹底さは生産性にも影響します。日本企業は、全般的に生産性が低く、ROE(株式収益率)も低くなっています。日米で生産性を比較すると、一部製造業を除き日本の産業の生産性が低く、これを高める必要性を訴えてきました。日本では就業者の25%ぐらいが卸・小売業に従事していますが、このセクターの生産性はアメリカを100として6割低い43%ぐらいの水準です。飲食・宿泊業はアメリカより7割以上低い26%台です。また、金融・保険も88%ほどです。日本の非製造業の賃金は上がりにくい構造です。こうした企業群の生産性を高められれば、日本経済を強くすることになります。そして、このような企業がどこに多いかというと、地方に多いのです。問題の先送りでは、何も解決しません。生産性を上げ、新しい企業を創造していく。そこに新しい雇用を吸収していくことが大事です。

GPIFのガバナンス改革を急げ

―塩崎さんは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革についても提言されていますね。その狙いは、どんなところに・・・。

塩崎 現在、GPIFはその資産の6割が国債で運用されていて、国際的に見ても偏った運用になっています。このため、GPIFは資産運用の生産性を上げる必要があります。国債運用の比率を下げれば、海外を含めたエクイティ(株式)への投資は増えていくと思います。その際、大事なことは「スチュワードシップ・コード(注3)(資産運用受託者としての責任ある行動)」の考え方です。日本では、2014年2月にまとめられましたが、同コードの趣旨は株主である資産運用をする側が、投資先企業と対話をして対象企業の生産性と収益力を向上させていくことにあります。GPIFは、この点が不十分でした。
 我々は、GPIFに危険なものを買えと主張しているわけではありません。賢い資産運用をして、年金制度の安定化と年金受給の確実性を高めてもらう狙いです。その副産物として、日本の経済再生を同時に達成することが可能だと申し上げています。総資産規模120兆円強は、世界最大規模のソブリン・ウエルス・ファンド(政府系投資機関によるファンド)です。ところが、そのリターンは必ずしも高くない。
 一方、シンガポールのソブリン・ウエルス・ファンドであるGICは、日本でもハイテク倉庫などを含めた不動産投資等を積極的に進めています。GICには資産運用担当者が400〜500人いると言われていますが、GPIFは、投資運用スタッフが「7人のサムライ」と言われるぐらい少ないのです。今後、分散投資を確実にするため、優秀な人材を入れるのは当然だが、何よりリスクの取れないガバナンスの法人形態を改めることが重要です。
 今国会の代表質問でも、GPIFの改革について聞きましたが、霞ヶ関は動いていません。そこでGPIF改革法案として議員立法で法律をつくりますよと、申し上げているところです。

日本の本気度を世界が注視

塩崎 先日、アメリカの経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の記者が私の事務所にやってきて、「日本は、何も変わらないのでは」と言っていました。このままでは、国際的にもWSJの記者と同じ受け止め方をされてしまいます。その流れを変えるには、GPIF改革法案を今国会に提出して、改革への本気度を内外に示さねばならないと思っています。
 ただし、制度改革で全ての問題が解決するわけではありません。だから、独立取締役でも、導入したからといって、全てよくなるわけではない。必要条件だが、十分条件ではないのです。やはり本当に必要なのはよい経営者です。「日本には、日本的経営の良さがある」との指摘はあります。だからといって、独立取締役を導入しなくていい理由にはなりません。
 独立取締役は、導入して当たり前で、あとはどれだけそれが機能するようにするかです。トヨタ自動車が昨年、社外取締役を入れ、今回、キヤノンや新日鉄住金も導入することになりました。これで、日本企業が本当に変われるかどうか。そこを世界が注目しています。


注1 自民党・日本経済再生本部最終提言=同本部は210 3 年5月に、日本経済再生本部としての中間提言を公表したが、今年の提言は2 014 年5月に公表の予定となっている。
注2 銀行等保有株式取得機構=2 0 0 2 年に主要金融機関各社の出資により設立されたもの。金融機関の保有株を時価で買取り、時間をかけて放出し、株式市場に影響を与えないようにする。買取業務期限は2 017年3月末まで延長されている。
注3 スチュワードシップ・コード=資産運用受託者としての責任ある行動。企業の持続的な成長を促す観点から、機関投資家が適切に受託者責任を果たすための原則。日本では、日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会で議論され、今年2月に「日本版スチュワードシップ・コード」がまとめられた。

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