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現代ビジネス-2013年3月28日掲載記事

金融庁は金融円滑化法への未練を断ち切れ!官主導の"飛ばし"や"隠ぺい"はアベノミクス第3の矢に反する行為だ!(現代ビジネス)

 日本銀行の黒田東彦新総裁が3月21日に誕生し、新体制が本格的に始動した。アベノミクスが掲げる3本の矢の1つ、「大胆な金融政策」の舞台が整った。日本経済の再生へ、一段と弾みが付くことになるだろう。日経平均株価も既にリーマンショック前の水準にまで回復。今度こそ、「失われた20年」からの脱却をという熱い息吹と高揚感が、政府からも市場からも日々伝わってくる。

 市場に高く評価されているアベノミクスだが、3本の矢のうちの第3の矢である「民間需要を喚起する成長戦略」で世の期待を裏切る訳にはいかない。「アベノミクスも、結局は古い、従来型の自民党的経済政策に過ぎなかった」と失望されることは許されないのだ。

 そのためには、安倍総理自身が年初の所信表明演説で語った通り、「これまでの延長線上にある対応では」、今の日本は苦境から脱却できないとの認識を改めて持つことだろう。そんな中で、1つの試金石とも言えるのが、「中小企業等金融円滑化法」いわゆる「円滑化法」の期限切れ問題への対応だ。

円滑化法と"ゾンビ企業"

 かつての民主党政権下では、将来性があるかないかにかかわらず、苦境に立っている企業はすべて救うという政策を取ってきた。その結果、本来なら市場原理によって退場を迫られるのに、政治の不公正な力によりいたずらに延命した、いわゆる「ゾンビ企業」が大量に生み出されてしまった。

 民主党政権初期の亀井静香金融担当大臣が、金融・経済の専門家はもとより、自らの足元の金融庁、そして広く世論の反対をも押し切って強引に導入したのが、そうした民主党イズムの典型例ともいうべき「円滑化法」だ。

 金融機関はこの法律によって、本来の返済条件を見直すことを事実上義務付けられた。返済されるべき債務を、政治力による特例措置で先送りにしたのである。この"モラトリアム法"によって、構造的な低収益性、低生産性の結果、業績が低迷し、本来なら金融機関から引導を渡されるはずだった企業が延命した。

 その効果は甚大で、施行後半年間は、中小企業の倒産件数はほとんどゼロ。リーマンショック後、100年に1度と言われる大不況に直面したにもかかわらず、全体の倒産件数はむしろ減少したのだった。本来はリーマンショック対応のための2年間の時限措置だったはずが、民主党政権は2度にわたりこの法律を延長した。それが、この3月末でようやく廃止されることとなったのだ。

 この円滑化法を廃止すると、あまりにも多くの企業が市場からの退場を余儀なくされるのではないか、と危惧されてきた。しかし、逆に言えば、それだけの企業を無理やり延命させてきた証しでもある。過った政策が、いかに問題を深刻化させ解決を難しくするか、という典型だろう。

 もちろん、過った政策は早期に正常化しなければならないのは言うまでもない。問題を先送りしたままでは、アベノミクスで目指す成長の足を引っ張ることになるのは明らかだからだ。

 ところが、当初、亀井法案に強く反対したはずの金融庁は、民主党と亀井氏が政権から離れたにもかかわらず、この円滑化法と同じ効果を持つ先送り策を自ら導入しようとしているようにみえる。どんな企業も倒産させず、金融機関に丸抱えさせるというのは、民主党や亀井氏のアイデアではなく、金融庁自身の発想となったのか。それとも、正常化して企業破綻が増えたり、地方金融機関の業績が悪化すれば、過去3年間の自分たちの失策を問われかねない、とでも思っているのだろうか。

 金融庁の先送り姿勢を鮮明に示しているのが、昨年1月にひっそりと改訂された「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」だ。これは、税と社会保障の一体改革の議論でも迷走を続け、世の中が民主党政権に嫌気していた最中に、人知れず改訂されたものだ。

 金融庁はこの改訂によって、地方の中小企業の生殺与奪、ひいては"ゾンビ企業"温存の決定権を、金融機関に握らせた。もちろん、その金融機関に強い影響力を持つのは、言うまでもなく金融庁である。つまり、このマニュアルによって、円滑化法という悪法を、事実上延長しようと目論んでいたのではないか、と疑いたくなるほどだ。

「隠れ不良債権」の大量生産

 改訂された別冊〔中小企業融資編〕を今改めて見てみると、金融庁の狙いが伺える文言が並んでいる。「破綻懸念先」に分類されるべき債権基準についての記載では以下のように書かれている。


 引当率の算出に当たって、金融機関が十分な態勢の下、企業・事業再生に向けた支援等の取組みを実施する場合には、当該支援先(または同様の支援等を実施しようとする先)については、支援等の取組みにより低減された信用リスクに基づく引当率を使用することに合理性があるものと考えられる。

 したがって、金融機関が日頃の債務者との密度の高いコミュニケーションを通じて、真摯かつ積極的・組織的な企業・事業再生支援への取組みを実施している場合には、これらの取組みを実施し、その実績データが存在している債務者を、それ以外の債務者と区別してグルーピングすることにより、引当率に格差を設けることができるものとする。 〉

 要するに、地銀リレーションシップバンキングを通じて支援されている企業・債務者は、別格の扱いを受けることを公に認める原則論が記載されているのだ。

 続く「資本的劣後ローンの取扱い」においても、金融機関の中小・零細企業向けの要注意先債権・要管理先債権について、金融機関と債務者との間で双方合意の上、資本的劣後ローンとする契約が締結されていることなどの要件を満たす場合、債務者区分等の判断において、当該資本的劣後ローンを当該債務者の資本とみなすことができる旨が記載されている。

 それを受けた金融検査マニュアル本体においても、「要管理先」の分類に関し、こう書かれている。


 要注意先の債務者のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理債権である債務者をいう。ただし、要管理債権が貸出条件緩和債権のみであり、貸出条件緩和債権の全てが、本別表1(3)(注)又は「金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]7資本的劣後ローンにおいて資本とみなすことのできるとされている債権である債務者は、「要管理先である債務者」に該当しない。以下同じ。
 〉

 とされている。こうした金融機関による資本的劣後ローンの取り組みは「DDS」(Debt Debt Swap・デットデットスワップ)とも言われるが、金融庁の方針により、これら本来個別引き当てが必要な「要管理先」として区分されるべき債務が、正常債務となったり、「不良債権」の定義に当てはまらない「その他要注意先」に区分されてしまっている例が多く存在するのではないか。

 加えて、金融庁は今国会に銀行法改正案の提出を計画しており、銀行等による議決権保有規制(いわゆる株式保有に関する「5%ルール」)の改定を狙っている。企業再生や地域経済の再活性化に資する効果が見込める場合、「資本性資金の供給」との整理により、これまでの銀行による株式保有の大原則であった5%の上限を超えて株式を保有することができる、との哲学的転換を行おうとしているのだ。しかも、政治の場での深い議論なしに強行突破しようとしている。

 なぜ米国は大恐慌以来、銀行の株式保有を禁止してきたか。なぜユニバーサルバンキングの下で株式保有が許されるドイツで、同国トップのグローバル・バンクであるドイツ銀行がそれまで保有してきた株式の相当部分を自発的に手放すに至ったのか、じっくりと考えるべきだろう。

 金融庁は、「例外」を正当化する要件として、地域経済活性化支援機構(旧企業再生支援機構)や中小企業再生支援協議会等の「第三者」が関与した案件で、銀行の出資を織り込んだ事業再生計画が策定されているもの、などの条件を組み入れているが、ここに潜む本質的リスクは、上記マニュアルでの「問題先送り」と全く同じだ。

 それ以外にも、例えば「破綻懸念先」の分類において、経営改善計画等が策定されていない債務者であっても、金融機関等が作成・分析した資料を踏まえて、要注意先へ区分判断を行えることや、貸出条件の変更を行なった日から最長1年以内に経営再建計画を策定する見込みがあるときには、貸出条件緩和債権には該当しない、など、様々な抜け道、特例を奨励する記載が、金融検査マニュアルには盛り込まれているのだ。

 こうした本来の企業会計の理念からも、公正な情報開示の哲学からも逸脱する操作によって、本来なら「不良債権」となるべきなのに、そう計上されていない「隠れ不良債権」がありそうだ。その「隠れ不良債権」が30兆円近くに達しているのではないか、と推測する金融専門家もいる。

 まさに借り手にモラルハザードをもたらし、事実上銀行の粉飾的決算へと誘導するかのような指導が、金融庁主導で行われていると言っても過言ではない状態なのではないか。銀行の個別引き当て・債権放棄等が遅れれば、本来回すべきところに資金が回らず、真に救われるべき企業の再生を阻害し、健全な経済成長は損なわれる。

 こうなると、もはや問題先送りのための官主導の「飛ばし」「隠蔽」と言われても致し方ないのではないか。いずれ破綻することになれば、結局、誤魔化し続けた分だけ、日本経済に余計にダメージを与えることになる。厳格な資産査定に基づく銀行の適切な個別的貸し倒れ引当をし、同時にそのカネを新規、成長しうる分野に回すよう促すことこそ、本来あるべき政策のはずだ。

 今次の緊急経済対策に合わせ、名称を変えて事実上10年間存続することが決まった地域経済活性化支援機構(旧企業再生支援機構)の大元は、第一次安倍内閣で我々が構想したものだった。ゾンビ企業や第三セクターの「生命維持装置化」していることが往々にしてあった地方金融機関の行動パターンを、本来の銀行の使命である、企業を育て、雇用と所得を地域に創り出すことへと、立ち返えらせることが何よりの目的で、当初は「地域力再生機構」との名称だった。

 各都道府県のしこり切った中堅企業や第三セクター向けの案件をいくつか選び、時限的に資源を集中投入し、その再生を図りながら、地方の金融機関に生まれ変わってもらい、機構自体のサンセット後には、自立した民間金融機関にこそ地域経済を立て直してもらいたい、というのが狙いであった。アベノミクスの下では、その精神、哲学を取り戻すことが求められていると、金融庁に気付いてもらいたい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35269

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