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現代ビジネス-2013年1月23日掲載記事

「官僚統制型」の「業者行政」から「競争政策」へ! 日本再生のカギは「公正かつ自由な競争」の実現にある!(現代ビジネス)

 1月10日、自民党政務調査会の各種調査会の会長人事が決定された。注目すべきは、これまで長年、党内の公正取引委員会の所掌政策に関して議論してきた「独占禁止法調査会」が、この度「競争政策調査会」に名称を変えた事である。その意味は、日本経済再生にとって、大きい。

 実はこの改称には私の長年の拘りがある。1980年代初頭に留学先のハーバード行政学大学院での恩師で、公取委に匹敵するFTC(連邦通商委員会)経験者、そして後にクリントン政権で労働長官となるロバート・ライシュ教授から「競争政策」という言葉を頻繁に聞き、「独禁政策」という言葉に馴染んでいた私は新鮮な衝撃を受け、以来拘り続けてきた。

 とりわけ今から10年近く前、私が「独占禁止法調査会」の事務局長をしていた時にさらにその思いを深め、名称変更、すなわち哲学の転換が必要だとの問題意識が日増しに強くなっていた。新政権のスタートを機に、この度名称変更を提案したところ、高市早苗政調会長には直ちにその意味と重要性をご理解頂き、即決された。

市場メカニズムの効用を最大化し、市場の失敗を是正する政策

「独禁政策」と「競争政策」は異なる。誤解を恐れず簡潔化すれば、すなわち、「独禁政策」が、市場支配的な企業による濫用行為を規制するため、予め大企業の合併を規制する政策であるのに対し、「競争政策」は、規律と監視の下で市場メカニズムの効用を最大化し、競争による市場全体の成長と便益をもたらすことを目的とする政策である。逆を言えば、その目的さえ担保されていれば、必ずしも合併規制を至上目的としない。

 これまでの日本では、「競争」の哲学が真に根付いていたとは言い難い。むしろ、業界ごとの利益を監督官庁が集約し、調整したうえで全体の経済政策の計画を官主導で立案するという、「官僚統制型」、「社会主義型」の体制が取られてきた。そうした業界の声を汲んだ政・官が行なう「業者行政」が、「産業政策」と呼び変えられ、もっともらしく経済政策として扱われることが多かった。

「競争政策」とは本来、規律と監視の下で市場メカニズムの効用を最大化し、市場の失敗を是正する政策でなければならない。市場ではさまざまな問題が発生するが、それを法的な視点から捉えて調整し、しっかり是正する必要がある。

 すなわち、監督官庁が最初から恣意的に、かつ積極的に指導するのではなく、ルールの下で市場の自由に任せたうえで、そのルールを逸脱する問題のある行為に対しては法を適用するべきなのだ。したがって、官の役割は、専ら市場を監視・監督するという事後規制にとどまるべきである。

 本コラムでも紹介したことがある、「公正競争条件確保法案」の検討過程でも、改めてこの問題を再認識させられた。

 この法案は、日本航空の救済・再生の過程で、私企業に対する過剰な公的支援が航空市場の競争条件を歪めた問題に鑑み、日本における公的支援に関する競争政策ガイドラインを公正取引委員会が作り、業者行政官庁を監視することを主旨としている。「EUガイドライン」としてこうしたルールが既に確立している欧州連合(EU)の競争政策を参考にして策定したものだ。

「競争政策」の権限を持たない公正取引委員会

 民間企業が経営危機に陥った際に、どこまで国の関与が許されるか。国民の税金である公的資金を、経営に失敗した私企業につぎ込むのが認められるのはどんな場合か。実はこれまで我が国には、その明確な線引き、ルールがなかった。言い換えれば、長らく「競争政策」という観点が殆ど不在のままで来てしまったのだ。

 まして政権担当に未熟だった民主党政権が「困っているなら助けてやれ」とばかり、破綻した企業に過剰な資本注入や税制優遇、政策的優遇措置を認めて救済してしまったのは、むべなるかな、なのかもしれない。

 各産業への監督官庁の規制・監督権限が余りに強ければ、いわゆる業者行政が優先し、独占禁止法を適用していく余地は自ずと狭くなる。本来の競争が行われないまま、市場原理による資源の有効活用が行われず、結果として国民がそのコストを負わされてきた、と言えよう。

 独占禁止法の執行者として、公正かつ自由な競争市場の番人を任ずる公正取引委員会だが、日本の独禁法に明示されているその権限は薄く弱い。昨年、私は国会において、公取委が有する「競争政策」の権限について問うたことがある。平成24年8月7日の衆議院国土交通委員会だ。

塩崎 「消費者、需要者の利益のための個別の産業政策と、競争政策という横串の政策のまさにぶつかり合いのことを今我々は問題にしようとしていると思うんです。そうした歪んだ事態、今、あり得ると言っているわけですから、それを解消したり是正することに対する公取としての行政権限あるいは政策ツールというのはあるのかないのか、答えてください。」

 そう私は率直に聞いてみた。それに対する、当時の竹島一彦・公取委員長の回答は明瞭だった。

竹島 「今の御質問の趣旨は、いわば産業政策と競争政策の調整について、公正取引委員会は権限を持っているのかというお尋ねかと思うんですけれども、その点については、持っておらないと言う方が正確だと思います。」

「官」と「民」の役割分担が不平等社会を防止する

 今の公取委は、日本の競争政策の守護者としては、実は全く不完全なのだ。公取委の根拠法とも言える独禁法の第1条には、こう書かれている。

「この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除すること」により「公正且つ自由な競争を促進(中略)することを目的とする」

 これだけ読めば、独禁法から競争政策の権限を読むこともできそうだ。しかし、法文上の構成としては、「排除すること」までの前段が法律の権限規定で、後段はそれにもたらされる結果、目標のはずだ。だから、公取委に「公正且つ自由な競争」を規制する権限を付与する法的権限がない、というのが当時の竹島委員長の解釈、結論であったのだ。

 同日の質疑で竹島委員長は、国の支援であっても公正な市場を歪めうること、日本には諸外国のような公正競争と公的資金のあり方に関する哲学が欠けていること、を認めた。そして公取委にはそれを是正する法的権限が与えられていないが、それさえあれば公取委として「競争政策」をしっかりやることを、はっきり主張してくれた。

 ならば、われわれが議員立法で公取委に「競争政策」の法的根拠を与えよう、と考え、早速議員立法を作ったのだ。そこには、「公正かつ自由な競争の促進を図るため、(公的支援を受ける事業者と他の同業者との)対等な競争条件を確保するために必要な事項に関する指針を策定する」と明確に競争政策の法的根拠を書き込んだのだ。

 小泉政権での規制緩和が行き過ぎ、結果として格差拡大が生じた、と喧伝され続けてきた。しかし、競争を促せば必ず格差社会、不平等社会が到来するわけではない。競争の結果生じた格差を放置することこそが、格差を拡大させ、不平等を是認する社会をもたらすこととなるのではないか。

「官」、すなわち政府が厳しいルールを作り、その順守状況を強力に監視・監督し、なおかつセーフティネットを整備する一方、その下で「民」、すなわち企業が競争を担うという役割分担こそが大事なのだ。

日本を世界にとって魅力ある市場に

 競争政策には、市場のルール設定から市場監視、そしてルール破りへの厳格な対処などが含まれようが、また同時並行的に雇用政策や所得再分配政策など、社会的セーフティネットも国家として整備されていなければ、真に安心できる経済社会は実現しない。日本の問題は、民間の競争にまで、「官」が介入している事だ。

 欧米では、ハーバード学派の独禁政策から、シカゴ学派の競争政策へ、1980年代あたりからシフトした。当時、情報処理市場における巨人であったIBMに対して起こった反トラスト訴訟の顛末が、その象徴ともいえる。

 米国ではIBMほか大企業が分割から免れ、国際競争力を保持し続けた。今日、EUでは競争政策がしっかりと制度上根付いている。依然、競争市場の番人と言うよりは、会社合併の番人と見られがちの日本の公取委に比べると、その哲学の差は歴然だ。

 更に日本では、前述のJALの過剰支援問題について、国交省の中に「公的支援に関する競争政策検討小委員会」なるものが設置されている。自らの公的な在り方が問題とされているのに、堂々と省内に「競争政策」を冠する検討会議を立ち上げたのには、いささか驚いた。日本ではまだまだ圧倒的に強い「縦割りの業者行政」に対し、「横串の競争政策」はぜい弱なままで、時にその違いが判然としないことすらある。

 日本のこれまでの不透明な縦割りの「業者行政」を改め、透明な「市場のルール」と「競争政策」という横串を通した、背骨の通った経済政策に転換することが急務だと思う。それをまず確立しなければ、いつまで経っても日本に対する外国からの投資は増えないだろう。

 この問題は日本経済全体の成長戦略にも通ずるのだ。なぜならば、喫緊の課題である国内の成長、すなわち国内雇用と所得の拡大のためには、海外での投資収益の国内への還元よりも、海外からの対内直接投資の増大の方が、はるかに即効性も有効性も高いはずだからだ。

 そのためにも、まずは市場の番人としての公正取引委員会を十分に機能させ、「競争政策」を日本に確立し、国内のみならず世界にとって魅力ある市場にすることこそ、日本再生の第一歩である。

 私もこの度、金融調査会長、党政調会長代理の他に、自民党日本経済再生本部の本部長代行も務めることとなった。競争を促進すると共に透明なルール設定から強力な監視・監督体制、さらにはセーフティネットを整備することによって、公正・公平かつ温かく、そして何よりも力強い経済社会を実現すべく、全力を尽くしていきたい。


http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34664

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