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NIKKEI NET 特別コラム「ザ・フロントランナー今週の視点」第12回-2002/09/09 号

信認回復のラストチャンス

かつてマレーシアのマハティール首相は「ルック・イーストポリシー」と称し、国作りの参考として、日本から学ぼうとした。ところが、今年の5月にタイで行なわれた ASEAN諸国の若手リーダー達との会議で、マレーシアの友人から「日本は『ルック・ウェストポリシー』を採るべきだ。すなわち、不良債権、過剰債務問題に一向に解決の目途が立たない日本は、アジア通貨危機以降のASEANなどの経験を参考にすべきではないか」と言われ、いささかショックを受けた。要は、マレーシア、タイ、韓国、中国等が、AMC(Asset Management Company: 資産管理会社)という不良債権買取り機関をフル活用し、社会的に極めて辛い政策でありながら、不良債権のオフバランス化、過剰債務企業再建を果敢に行なって来たのに、日本は整理回収機構(RCC)があっても遅々たる歩みである事に対し、苛立ちを込めた本質を突いた辛口コメントだった。

また、つい先日参加した日韓の有識者との会議で、韓国の日本研究者から以下のような点が披露され、改めて重い気持ちになった。すなわち、韓国では歴史的経緯から日本に対する負のイメージが根底にあるが、80年代には西欧的近代性をアジアで最初に採り入れて成功した国として、対日学習ブームに沸いたようだ。しかし最近では、ワールドカップ大会後に日韓親善ムードが盛り上がったり、アニメ等日本文化への関心や消費こそ確実に増大しつつあるなど、韓国人の日本観は表面的な改善をみせているが、日本の経済や政治はもはや「学習・模倣・関心の対象」ではなく、むしろ躍進を続ける中国に関心が移っているという。事の本質を捉えた極め付けは、「失われた10年は日本の新しい将来像を描くチャンスでもあったのに、なぜ日本政治は国家の目標や理念を示して、そこに向けた改革を推進して来なかったのか?」との韓国の政治学者からの指摘であった。

株価がバブル崩壊後の最安値を更新する中、特別検査により主要行の健全性に問題なし、と太鼓判を押し、たった4ヶ月余りしか経っていない金融庁自らが、ペイオフ凍結解除の実質延長方針を決めてしまった。そして今、何度目かの「緊急デフレ対策」が政府・与党から打出されようとしている。

98年の金融再生トータルプラン以来、私達は経済低迷やデフレの克服は、不良債権と過剰債務問題の解決抜きにはあり得ない、と唱えて来た。今回はどの論調を見ても表向きこのコンセンサスはある。しかし問題は、今回こそ王道を歩み、「敵の本丸」を正面から攻め落とすかどうかで、もしそれができなければ、先進国はもとより、眼差しが日増しに厳しくなりつつあるアジア近隣諸国の、日本の国家としての問題解決・統治能力に対する信認はいよいよ失墜しよう。今回の危機を日本経済再生のラストチャンスとし、汚名返上のため、今度こそ問題を一切先送りせず、また、市場を歪めたり、将来の税負担増になり得るような一時凌ぎの「株価対策」的政策や、モラルハザードに繋がる銀行救済的弥縫策は禁物だ。与党・内閣の強い意志をもって、厳格な銀行資産査定に基づく「強力な裁量行政」によって金融システム問題に突破口を開き、既に内閣が大枠を決めている減税や新規需要開拓など、総合的な戦略を一段と踏み込んで実施し、一日も早く本来あるべき日本経済の姿に戻さねばならない。