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週刊東洋経済「視点」-2004/01/19 号

銀行と証券市場の利益相反を克服するには日本版SEC必要

昨年、2つの対照的な銀行処理が行われた。「過小資本に伴い公的資金を注入したりそな銀行」と「債務超過で一時国有化された足利銀行」である。いずれも、繰延税金資産の問題で銀行監督当局と監査法人の主張が食い違った。りそな銀行の場合、「監査法人が銀行の生殺与奪の権を握ってよいのか」、そして足利銀行の場合、「監査法人が銀行監督当局の言いなりでよいのか」という疑問が、多くの人々から投げかけられた。

2つの銀行処理の当否については歴史の判断を待つしかないが、一連の議論から改めて浮き彫りになったことは、銀行監督当局と、監査法人を所管する証券市場規制当局との間には「利益相反」がありうるということだ。銀行監督当局が株式会社の存亡に関わる判断をなしうる監査法人の言いなりになるのはおかしいし、逆に、ある官庁が銀行監督と証券市場規制双方の権限を持てば、銀行行政の道具として監査法人に圧力をかけることをつねに疑われかねない。

つまり、預金者保護目的の当局と、投資家保護目的の当局では利益が相反しうる以上、お互いの論理のぶつかり合いを白日の下に晒し、それを克服して最適解を得ることが大切である。いま証券取引法第65条の銀証分離規制見直しの議論が始まっているが、それ以前の問題として、銀行監督当局の論理と投資家保護の論理のいずれが社会にとって望ましいかを、個々のケースで国民が判断できる体制が重要だ。国民の目に争点が明らかになる仕組みこそが、お互いの行政が緊張感を保ちながら最善を尽くす原動力となる。だからこそ、私はかねてより「日本版SEC(証券取引委員会)」創設こそが、わが国の資本主義の質の向上と企業競争力強化に繋がると唱えてきた。

昨春、ある大手行で一兆円の第三者割当増資が行われた。銀行監督当局はこれを容認したが、証券市場規制当局の立場からは、融資先への優越的地位を利用した、事実上強要された増資は健全な資本とは認めがたいと指摘すべきだった。残念ながら、二つの当局が同一組織にあれば、銀行の建て直しが目先の重要命題ゆえに銀行経営への温情が優先しがちとなる。だが、この利益相反によって、投資家がしばしば銀行の犠牲になってきたことを国民は知っている。「間接金融から直接金融へ」と鐘や太鼓を鳴らしてみても、国の姿勢が銀行優位のままでは踊る人はそう簡単には出てこないだろう。

銀行監督のルールと会計など証券市場規制のルールは別物である。その意味では、議論の焦点である銀行における繰延税金資産の上限額についても、他の産業にも適用される一般的な会計ルールとは別に、預金者保護という保守的な基準で銀行監督当局が独自の物差しを持たねばならない。金融庁は、明確なルールを早急に世に示し、来春のペイオフ解禁に向けて堂々と行政を進めるべきだ。