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現代ビジネス-2012年11月6日掲載記事

世界のパワーバランスが変化している今こそ、外交・安保の総合司令塔「日本版NSC」を一刻も早く創設すべきだ!(現代ビジネス)

 尖閣諸島への国民の関心は、一時に比べればやや薄れているようにも見えるが、中国の漁業監視船が尖閣諸島周囲の日本領海に繰り返し侵入している。これは単なる挑発というよりも、領海侵犯の既成事実化を狙っているのは明らかだ。そして、軍艦も尖閣諸島の北方海域に展開されていることが判明している。

 中国は共産党上層部の政治決断に従って、外交、通商、公安、観光など国家一体となって政策総動員により日本に挑んできているはずだ。その一方で、わが国の民主党政府の対応は、一貫性を欠き、弱腰かつ後手後手で、国益を失いつつあるとしか見えない。

 政府の明確な意思が見えず、一丸となっていない。海上保安庁が孤独な戦いを一人演じざるを得ないのでは、と不安になるほどだ。ガス田開発などを考えれば、東シナ海全体、竹島、北方領土で、わが国は国家ガバナンスの脆弱性をさらけ出している格好ではないか。

刻一刻変化する安全保障環境に即応できる体制を

 政府の対応が一貫せず、後手後手に回るのは、こうした国家的危機に際して明確な指揮命令を行う司令塔が存在しないからだ。今こそ、外交・安全保障の総合的な司令塔機能を発揮する「日本版NSC(National Security Council、国家安全保障会議)」を設置すべきだ。

 実は、「日本版NSC」の創設にまであと一歩だったことがあった。2007年4月、安倍晋三内閣は政府として初めて「日本版NSC法案」を閣議決定の上、正式に国会に上程した。残念ながら、同じ内閣委員会で扱う公務員制度改革法案の成立を政権として優先させざるを得ず、会期末に時間切れとなって継続審議となっていた。

 しかし、民主党政権になってからは菅直人首相(当時)と野田佳彦首相がそれぞれ日本版NSC創設に関して関心を示す発言はしたが、立法作業の気配はなく、本気度ゼロのまま、今日に至っている。

 この間、あまり知られるところとなっていないが、英国では、2010年5月に発足したキャメロン首相の下の保守党・自民党連立政権によって、NSCが既に設置されている。当時、混迷の度合いを深めていたアフガニスタン問題や、リビア問題、イランへの制裁強化の動きなどを巡り、新設されたこの「英国版NSC」は意思決定の中心的な役割を担った、という。100名を超えるNSC事務局員が多様な情報を統合、分析して、政権が情勢判断を行う上で重要な職責を担ってきている。

 周辺国や世界のパワーバランスが変化するときこそ、外交・安保の戦略的舵取りが一国の死活問題につながり易い。平時から独自の事務局に集まる政府内外の豊富な情報に基づき、日本の中長期的な外交・安保戦略を静かに地道に練り上げておくとともに、刻一刻変化する安全保障環境に即応できる体制を構築しておかねばならない。

日本が自らを守るためには「日本版NSC」が必要

 アジアの隣国を見ても、韓国はすでにNSCを持ち、台湾にも同じ機能を担う「安全会議」がある。戦後、冷戦構造の中で日本は自国の外交・安全保障問題については、とかく「米国頼み」になりがちであった。そこで、安倍政権は「戦後レジームからの脱却」を掲げ、こうした冷戦時代型思考からの決別と同時に、自国と自国民の安全は自らの手で守るという、国家として当たり前の責務を果たすための具体策を打ち出したのだった。

 その象徴が「日本版NSC法案」であり、もう一方が「集団的自衛権の行使に関する憲法解釈の変更」の可能性追求だった。安倍内閣時に設けた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)の報告書にある「4類型」の憲法解釈変更の考え方は、いずれも、日米同盟の機能強化の前提になる、憲法の範囲内ながら、日本が自らより多くの責任を担って自国を防衛する、との考えに基づくものだった。

 今回の自民党総裁選挙でも安倍総裁候補は、その公約の中で「4類型」に具体的に触れている。また、5人の総裁候補全員が期せずして集団的自衛権行使を可能にすべき、との考えだったことから、次期総選挙後の政権交代時には、これが実現する可能性が出てきた、と言えよう。

 2010年は日米安全保障条約が結ばれて50年の節目の年であったが、鳩山由紀夫首相(当時)が普天間基地問題への行き当たりばったりの対応によって日米関係を徹底的に悪化させた年だったこともあり、節目を記念する重要な動きは皆無だった。

 それでも、今回の尖閣諸島問題に関して米国政府は、尖閣諸島は日米安保条約の対象となる、というクリントン国務長官発言に見られるように、「最後の一線」は必ず守ることを繰り返し明言してくれている。

 しかし、日本が自ら覚悟を持って尖閣諸島を死守する、中国と真正面から対峙することになっても尖閣は守り抜く、という強い覚悟が感じられない限り、米国は自国の若者の命をリスクに晒してまで日本のために戦うことはないだろう。そして、それは日米同盟関係が終わる時だ。

 そうした観点からも、日本が自らを守るために、安全保障上の能力と、危機管理対応能力を高める必要があるのだ。だからこそ「日本版NSC」は必要なのである。

偏りのない人材と、省庁からの独立性が重要

 安倍内閣が国会上程した法案における「日本版NSC」は、首相、官房長官、外相、防衛相の4人が基本メンバーだ。人数を絞り込むことによって、国家の意思決定がスムーズに行われることを狙っている。危機を前に各省の省益を背景にした閣僚が小田原評定を繰り返す愚だけは避けなければならない。

 もちろん、エネルギー安全保障ならば経済産業相、地球温暖化安全保障(climate security)ならば環境相が入るなど、問題内容に応じた臨機応変さも大事だ。安全保障に関するしっかりした意思決定のできる司令塔なしで、有事に政治が毅然たるリーダーシップを発揮できない事は、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故で図らずも露呈してしまった。

 NSCは、国全体の危機管理や安全確保を網羅する「安全保障」全体を考えることで決断を下す。国益に関する全体観を持って決断する組織がなければ、従来型の各省の縦割りが先行してしまう。

 そのためにも「日本版NSC」には高い専門性、特定省庁からの独立性、国益への忠誠心、が備わった事務局が必要だ。これが「日本版NSC」の成否を分けると言っても過言ではない。今の内閣官房のように、各省庁からの出向者による「調整の場」にしたり、いずれかの省庁に偏った判断や政策を許してはいけない。

 各方面から「省庁ひも付き」ではない、本物の専門家を集めることだろう。外務省寄りでもいけないし、防衛省寄りでもいけない。バイアスのかかっていない偏りのない人材と、省庁からの独立性が必要だ。もちろん、危機管理や安全確保の専門集団である自衛隊の制服組や警察・消防の専門家も加わってもらう必要がある。

 言うまでもないが、事務局長は世界の"安全保障マフィア"の一角を占めねばならず、政治家がなることはあり得ない。

より厳格な罰則付きの情報保護法制を

 ただし、こうした国益に忠誠を誓う、独立、専門的安全保障の司令塔が成り立つ重要な前提は、我が国政府のインテリジェンス体制の抜本見直し、強化、統合化、が行われ、統合された情報収集、分析体制を確立することだ。

 これまた安倍内閣で相当程度までに詰まっていたにもかかわらず「道半ば」となってしまった課題だったが、外交、安全保障情報が外務省、防衛省、内閣官房情報官、警察、国土交通省海上保安庁、法務省公安調査庁、などに分散され、情報が拡散し、分析力もそれぞれが弱いままだ。統一された情報収集、分析ができる専門組織が必要で、ここでも「省益」ではない「国益」のためのインテリジェンス活動がしっかり行われることが重要だ。

 さらに言えば、こうした有効なインテリジェンス活動の重要インフラは、しっかりした情報の機密保護制度だ。日本の保秘法制は脆弱だ。より厳格な罰則付きの情報保護法制が必要だ。「知る権利」とのバランスがいつも議論になるが、国益を犠牲にして知る権利を守るような本末転倒は許されないのではないか。

 罰則付き守秘義務がかかった一般職国家公務員による情報漏えいも後を絶たない。また、特別公務員には「罰則なしの守秘義務」が課されるだけ、というのでは、政治的メリットを国益に優先する大臣がい続けるほか、国会における真の「秘密会」などあり得ない。

 考えてみれば、平気で情報漏えいをする大臣に、官僚組織は知り得た極秘情報は上げないことも、国益を考えるとあり得る。となれば、一体誰が国家の最終責任を負うのか。それが首相の場合、自衛隊の最高司令官に最高機密情報が上がらないまま自衛隊の指揮をする、という、誰がこの国の最終責任者か分からないことになってしまう。

 このように、国家の統治の仕組みとしてあり得ない仕組みがこれまで維持されてきたのだ。安全保障に関する周辺環境が緊迫の度を増している今、こうした国家統治機構、ガバナンスの仕組みは、もうそろそろ大胆に変えねばならないだろう。

 自民党総裁になった安倍元首相も、総裁選のマニフェストの柱に「日本版NSC創設」や情報収集・分析力強化を掲げている。ここ3年間の外交・安保崩壊の結果、韓国、中国、ロシアなど、自民党政権時代には考えられなかったほど周辺国との緊張関係が高まっている中で、一日も早く、外交・安保の総合司令塔を構築すべきだ。

 これこそ総選挙を経て安倍内閣が誕生すれば、真っ先に実行すべき政策のひとつであることは間違いない。もちろん、この司令塔と同時に、それに関連するインテリジェンス機能再編・統合・強化、さらにはそのインフラである保秘法制整備が必要であることは言うまでもない。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33976

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