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現代ビジネス-2012年6月12日掲載記事

増税すればすべて問題は解決するわけではない。選挙を「日本再生のシナリオ」競争にして、国民に選択の機会を!(現代ビジネス)

 野田佳彦首相が法案成立に向けて「政治生命をかける」とした社会保障・税一体改革関連法案の審議が、国会で最大の山場を迎えつつある。6月21日の会期末を控え、外遊出発前の15日までに衆議院で採決を行う事を野田首相が断言した事から、自民党、公明党も実務者協議に応じることになった。

 社会保障政策に関して自民党と民主党の考え方の違いが大きいため、妥協点を探るのは至難だと思うが、消費税増税に関しては自民党は既に2010年の参院選の際、民主党に先んじて、当面10%への引き上げを国民に約束している。歳入・歳出のギャップが約50兆円もある事を考えれば、いずれ増税は避けられない。国民の8割方も消費税増税は中長期的にやむを得ないと考えている。

 だが、今回の消費税増税が国民に大きな負担増になることも明らかだ。政府は今回の措置で12.5兆円の税収増を目論む。現在の国の税収が約42兆円だから、国民全体では3割近い大きな負担増となる事実は、生きた経済を預かる政治家は、きちんとおさえなければならない。

 何のために大きな負担増を国民に求めるのか。霞が関や永田町の中には、増税すれば問題は全て解決、との安易な見方も多い。しかし、これだけの負担増を国民にお願いするからには、この国のかたちをどう作り直すのかという「国家ビジョン」を同時に示すことが、政権を握った政治家の最低限の責務ではないか。これまでも「大きな政府、小さな政府」との選択肢を巡る議論があったが、まさにどういう政府を目指すのか、国民に示すことが重要だろう。もちろん、最大野党の自民党も、それに対抗する国家像を示す責任があるはずだ。

 民主党が政権交代前に示したマニフェスト(政権公約)や政策インデックスには、「脱官僚依存」「コンクリートから人へ」「行政刷新」といった言葉が並んでいた。肥大化してムダが多くなった自民党時代の政府を根本から見直し、小さな政府を志向するという政策を掲げたことが国民の信を得た理由だったと思うが、いまや当時の理念はまったくうかがうことすらできない。

 とにかくバラマキに徹し、政府をどんどん肥大化させた。政権交代以降、一般会計予算の規模が毎年大きくなっていることがこれを端的に示している。そして、そのツケを増税で賄おうというのでは、国民は納得しない。

 増税で増えることになる税収を新たなバラマキに回しては元も子もない。30%の税収増を、30%のバラマキ増にしてはいけないのだ。そのためには、歳出全体を見直す事が必要だ。当然、真っ先に来るのは、社会保障そのものの中身の改革である。増税したからと言って国民医療費や年金の支出総額を青天井に増やすことなどできないはずだ。

 団塊の世代が全員年金受給者となり、早晩医療費を最も使う高齢者層へとなっていく中で、支出を抑制し、全体の伸びを抑える努力がなければおカネはいくらあっても足りない。消費税率を20%近くにしなければ足りないと発言していた大臣もいたが、支出が膨らむに任せて、そのすべてを税金で賄うことなどできるはずはないのだ。

 国民が税金や社会保障保険料をどのくらい負担しているかを見る「国民負担率」というデータがある。毎年財務省が数値を計算し、公表している。2011年度(平成23年度)の実績見込みで40.1%だ。国税・地方税合わせた税負担率が22.9%で、社会保障負担が17.2%となっている。分母である国民所得の増減に大きく左右されるとはいえ、ほぼ一貫して国民負担は増え続けてきた。

 とくに社会保障保険料の負担増は著しい。1985年までは10%未満だったが、1995年に12%を突破、2001年には14%を超えた。2004年以降、厚生年金の保険料率が毎年引き上げられることになったことも大きい。

 これで消費税が10%になったらどうなるか。安住淳財務相は国会答弁で、「単純計算で国民負担率は3.7%上昇する」と答えている。つまり、2011年度の実績をベースに考えれば、国民負担率は43.8%になるわけだ。

 加えて、2011年度に月給(標準報酬)の16.412%(労使分合算)の厚生年金の保険料率は2017年には18.3%にまで引き上げられることがすでに決まっている。このほかに健康保険料率も毎年上昇している。中小企業が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の保険料率(労使分合算)は一部の道府県ですでに10%を超えた。

 給与が増えない中でサラリーマン層の負担感は大きく増しているのだ。税金だけでなく、第2の税金とも言える社会保険料もどんどん上がっている。給与の半分近くが「社会保障と税」に持っていかれるようになりつつある今、国民の増税に対する関心も非常に高くなっている。

 それだけに、「増税の前にやるべき事がある」という声に多くの国民が共感するのだろう。バラマキを含んだ全ての政策的支出や、議員定数、公務員人件費など、政府支出全体の見直しが不可欠なのはこのためだ。当然、その前提として、徹底的な行政改革、公務員制度改革などの姿を示さねばならない。もちろん、税金徴収の徹底、納税者番号制を含め、歳入改革も不可避だろう。

 財務省が示している2012年度(平成24年度)の国民負担率の見通しは39.9%に下がることになっている。これは税金が減るわけでも、社会保障費が減るわけでもない。分母になる国民所得が増えるという見通しになっているからだ。その見通しの当否は別として、国民負担率の軽減に、分母である国民所得の増大が必要なのは言うまでもない。つまり、パイを増やすことが不可欠なのだ。

 そのためには何よりも、日本経済が成長を取り戻すことである。経済の競争力を回復させる成長戦略、産業構造改革に徹底的に取り組む事が重要だ。「景気回復を増税の条件とする増税回避の口実だ」との批判があるが、それも問題の核心から目をそらしているだけだ。企業がどんどん弱くなり、海外流出も止まらない現状の流れを反転させずに増税しても、将来の税収は増えない。

 そのためには、コーポレートガバナンス(企業統治)改革、証券市場インフラ整備、大胆な規制緩和など、あらゆる国内制度を国際標準に改める一方、研究開発推進、教育改革なども含め、「良いヒト、良いモノ、良いカネ」がどんどん日本に集まる国を目指した国内大改革が必要だ。その際、法人税ゼロ特区や投資減税など、ターゲットを絞った税制の活用も大事だろう。また、EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)など、開国政策も必要だし、外国人人材活用など、これまで避け続けてきた問題分野でも発想の転換が不可避だ。

 「財政再建」と同時に「歳出見直し」と「成長戦略」、という大きな三本柱の改革を断行する事は、誰がどれだけ税負担をし、誰がどれだけ政府からサービスなどを受け取るのか、そして納税力をどう高めるか、を決める事であり、これはとりもなおさず日本の「国のかたち」を変える事に等しい。しかし、こうした大事な議論を飛ばして、増税とせいぜい社会保障の大枠論程度が議論されているのが、現在の一体改革論議だ。

 自民党もようやく「社会保障制度改革基本法案」の骨子を、一体改革関連法案の対案としてまとめた。「自助」を基本とし、「共助」、さらには「公助」の順に政策を組み合わせる考えを基本としており、私個人としても概ね賛同できる内容だ。また、民主党のマニフェストにあった「最低保障年金創設」、「被用者年金・国民年金一元化」、「後期高齢者医療制度廃止」など、効果なき非現実提案は放棄すべき、との考えも当然のことである。

 今こそ、政治は、こうした大きな改革に関する包括的提案を、すなわち「国のかたち」を変える全体像を、具体的に国民に提示すべき好機である。それによって自民党、民主党などの国家像、政治哲学の違いをしっかり示し、国民に今後の「国のかたち」の選択、すなわち選挙を通じた国作りに関する選択を改めてお願いしようではないか。要は、消費税引き上げ論議を、日本再生のためのシナリオ競争の場とし、政治哲学に則った政党のあり方を再構築する機会としたらよい。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32770

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