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リベラルタイム-2011年7月号掲載記事

「新価値の創出」に挑む
―日本復興マスタープラン―

日本経済復活にいま求められる課題は山積している。
原子力発電問題を論じる前に、
まず、総合的な復興プランを論じてみたい


 未曾有の被害を巻き起こした東日本大震災は、我国日本の歴史の大きな転換点となった。今回の大震災が日本国民に与えた試練は大きいが、我々がなすべきことは、単に被災した地域を元の姿に戻すことではない。日本は、世界最悪の財政の借金を抱える人口減少社会である。国内総生産(GDP)は、近い将来、インドにも抜かれて世界4位に落ちる。今回の天災で、日本の衰退を加速させることがあっては絶対にならない。我々はこの国難を乗り越え、世界における経済大国の地位を保持していかなければならないだろう。
 壊滅した太平洋沿岸の町々に強固な堤防と安全な道路網をつくり直し、インフラを整える公共事業は当然必要だ。だが、それだけでは、高齢者が3〜4割を占めるこの地域が、再び自律的に活き活きと動き出すことは期待できない。本当の意味での「復興」とは、原状回復ではなく、新しい価値を創出する仕事を指すというべきだ。
 いま、震災と電力不足の余波を受けて、日本中で経済活動が猛烈に落ち込んでいる。このままでは、今夏までに巨大な「経済大津波」が日本を襲う。いまこそ、国民の英知で復興に向けたグランドデザインを描き、実行することが求められている。最大の危機を最大のチャンスに変えねばならない。
 そして、復興とは決して被災地域の復旧にとどまらず、日本全体の復興でなければならない。日本経済全体の落ち込み回避を含めたグランドデザインを早急にまとめ、内外に明らかにすることが必要なのだ。

エネルギー政策の見直し

 電力供給量が絶対的に不足する中では、原子力発電所の即時停止といった感情論だけでは問題は解決しない。まずは、再生可能エネルギー比率を引き上げ、原子力比率を引き下げることを、高めの目標設定により目指すべきだ。政府が先頭に立ち再生可能エネルギー支援に乗り出せば、否が応でもイノベーションへの期待と投資は大きくなる。
 そのうえで、合理的な省エネの拡大はもちろん、太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーの拡充に加えて、企業のコ・ジェネレーションの積極的な拡大等を通じて、電力事業で民間活力を最大限に活かすべきだ。また、50Hzと60Hzに、東西で分断されている電力グリッドの完全接続化(50Hz←→60Hz)、220ボルト化等もこの際、計画的に、しかし一気に進めるべきだろう。
 それでも、現状では電力供給量は、毎年夏に逼迫しかねない。そこで、国民の側での工夫も、必要だ。サマータイム導入、在宅勤務の一定割合義務付け、夏季3週間バカンス導入、夏季の甲子園等大規模イベントの秋季への延期、午後1〜4時のシエスタ導入等々、思い切って意識を変えてみるいいチャンスである。早めに議論して、やれることはどしどし決めて、実行していくべきだろう。
 
国会を福島に移転、新都建設

 地震・津波で尊い人命や大切な財産が失われただけでなく、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、福島県の太平洋岸の30km圏内からの避難は、長期化することが懸念されている。こうした避難を余儀なくされている人々に、再び夢と希望を抱いてもらえるに十分な雇用の場、生活の場を提供することが急務である。
 新たな生活の場をつくり、雇用を生み出すべきである。福島県、ひいては東北地方の人々の気持ちを少しでも明るくし、原発事故問題は克服可能だ、との政治の覚悟を国内外に強く発信すべきなのだ。そうした意味から、国会を福島県に移し、新都を建設することはどうだろうか。首都機能移転問題は長年議論され、最近になって暫くお蔵入りしている。その案の一つがまさに福島県阿武隈山系台地であった。
 例えば、5年後に首都機能を福島移転、と決定し新都の建設に取り組む。国会議員自らが福島に拠点を置くことにより、被災地復興と日本再建への本気度を国際的にも示すことができるだろう。
 こうすることで、先行き十年間の巨大な需要が生まれる。何よりも、大がかりな実験として、スマートグリッド等エネルギー利用や、放射能防御を含む最新の防災技術を駆使して、新たな未来都市の姿をつくりあげる「新しい日本の夢」が生まれる。

主要機関の関西移転

 計画停電や原発事故の影響で、企業が関東地方から退去する動きが相次いでいる。原発事故の状況にもよるが、こうした流れは今後も長期間にわたって続くことになるだろう。
 東日本の負担を減らす一方で、西日本のすべての生産活動の水準を、これまでよりも3割以上増大していくべきではないか。これは日本全体の経済活動の落ち込みを避けるために必要なことだ。また、リスク分散の観点から、第二本社を東京圏外に置くことも企業の課題になるだろう。製造業にとどまらず、金融、農林水産業、マスコミ等サービス業でも、西日本の能力増強は必須の課題だ。
 政府が率先して、主要機関を関西等西日本地域に移転させ、産業界を挙げての西日本における経済活動増強の動きをバックアップすべきだ。最高裁判所・法務省や公正取引委員会、特許庁、日本銀行等、必ずしも東京に中心を置く必要がなく、地方でも十分に機能を果たせる機関は多く存在する。

新しい街づくり

 被災地域の問題については、東北復興院を宮城県仙台市に置き、被災地域を特区とすることが基本である。東北各県や国の各省庁が持つ権限を復興院に委譲・一元化し、現場に近い復興院のリーダーシップにより行政判断していく体制とすればよい。復興院は、日本の地方分権のフロントランナーとして、10年後に道州制を導入すれば、復興院はそのまま東北州庁に移行することが可能だ。そこまでの視界と覚悟を持って、東北
地方に住む人々が未来を託せるリーダーを、トップに選ばなければならない。
 岩手県気仙沼市、陸前高田市等の壊滅的なダメージを負った都市は、これから百年後に来るかもしれない大津波に耐えられる、まったく新しい街づくりをゼロから考えて欲しい。これは、生き残った我々の子孫に対する責任だ。
 そして高齢化が進む中で、これまで不便さが増していた街を、コンパクトシティにつくり変えるチャンスでもある。東北でまず再生可能エネルギー100%を実現し、スマート
グリッド等最新技術を駆使したエネルギー効率の高い都市にするのだ。

原発事故の原因究明

 史上最悪の原発事故となった東電福島第一原発について、なぜここまで事態が悪化してしまったのか、どこで判断ミスをし、手順を誤ったのか等、事実関係をつぶさに明らかにし、各種制度の不備の解明を含めた原因究明が必要だ。さもなくば、今後の原発政策の再構築はあり得ないし、世界の日本に対する信頼回復は実現しない。
 独立性の高い第三者機関によって事故の検証を、できるだけ早く進める必要がある。当然、政府、経済産業省、原子力安全・保安院、原子力安全委員会も検証を受ける立場だ。政府や東電が真実を隠蔽しようとしても、それを許さないだけの強力な立ち入り調査権や偽証に関する刑事罰等を整備する必要があるだろう。
 政府のお手盛りを許さないためにも、国会が真相解明と、原発の新たな安全確保に向けての改革ができるように、強力な調査が可能な独立委員会を、議員立法で国会に設置することが望ましい。
 
デューデリとストレステスト

 しかし、調査委員会の発足を待つまでもなく、いますぐに行えること、行うべきことがある。それは、全ての原発に対するデューデリジェンス徹底と、厳格なストレステストの実施である。福島原発事故を起こしたレベルの地震と20mを超える津波が押し寄せた場合、全国の原発でどうなるのか、というストレステストの結果を示さなければ、国民はもはや政府や電力会社の見解を信じることはないだろう。少なくとも、今回の事故処理プロセスにおける政府と電力会社のガバナンスの欠如は明らかで、従来の当事者
たちの能力では原発は管理不可能なことをさらけ出した。
 大事なことは、デューデリ、ストレステストの結果を踏まえ、本格的かつ全面的なエネルギー政策の見直しを国民とともに断行することだ。

原発の安全性確立

 5月6日に菅直人総理は緊急記者会見を開き、中部電力浜岡原子力発電所の運転停止を中部電力に対し要請した。国民の安全保障に万が一でもリスクが生じるのであれば、発電所を止めることはもちろんやむを得ないことであり、躊躇するべきことでもないだろう。しかし、問題は、その停止要請が合理的な、科学的見地・検証に則って行われたかどうかである。
 すなわち、今回の停止要請は、30年以内にマグニチュード8程度の地震が発生する確率が87%という、地震予想確率の数値のみで決定したかのごとく菅総理はいっているが、原発に対するリスクはもちろん地震だけではない。スリーマイル島原発も、チェルノブイリも地震や津波による事故ではなかった。あらゆる外部ショックに対する対策を強化すべきであり、特に、今回で原発の脆弱性が明らかになったがゆえに、テロ対策は強化せねばならない。自衛隊による警備も真剣に検討すべきではないか。
 また、規制組織の一元化、独立化と透明化が緊急課題であり、原子力産業育成を担う経済産業省から、原発の規制を担う原子力安全・保安院を完全独立させることも急務だ。日本の原子力安全・保安院のホームページを見ると、その役割は「各分野(何と、規制対象は原子力だけではない!)のエネルギー施設や産業活動の安全確保を使命とする国の機関」だという。
 私は5月の上旬に訪米し、米原子力規制委員会(NRC)幹部と意見交換を行ったが、その時強く感じたのは、守るべきは人間や自然環境であるNRCに対し、業者行政の延長として、施設や産業を守ろうという規制組織としての日本の原子力安全・保安院ではないかというものだった。日米ではそもそも誰のために規制をするのかが、全く違う。産業育成と規制との間で利益相反が起こること必至、との印象を強く受けた。
 さらにいえば、54年前にできた日本の原子力法制度は、これまで抜本的見直しがなされないままきた。これは自民党政権時代の問題であり、我々は真摯に反省をしなければならない。原子炉の安全規制(経済産業省)と放射線防護(文部科学省)、原子力賠償(文部科学省)がそれぞれ別々の法律になっている、原子炉の安全規制が二つの法律にまたがっている等専門家が見ても、混乱を招くような縦割りと細分化が進んでいる。安
全規制法制度の一元化と国際標準化は待ったなしだ。

議員定数の大幅削減

 おおまかにみると、三陸地域での被災規模が25兆円、今後膨らむ東電国有化を含む原発事故関連費用が25兆円、そして首都機能の福島移転と西日本地区のインフラ増強費用が25兆円、さらに、電力供給減少等にともなう経済活動の低下が長く続けば、名目GDPで25兆円分減少を見込む(5%に相当)。これらを全部合わせた復興関連需要を100兆円とすれば、このうち半分の50兆円(GDPの一割)は財政負担により賄うことが必要になるかもしれない。
 財源は、今後5年内については大規模な増税は行わず、国債発行により調達する。経済の体力が冷えた時期の増税は最悪の政策である。復興税の増税を主張する向きもあるが、経済が停滞する中で、所得税や法人税に付加しても調達可能な財源は一兆円にもとどかないだろう。消費税増税をという声もあるが、経済が弱い時期に国民の懐を冷やす必要はない。そもそも、復興目的の増税直後に社会保障目的の再増税を決めることは不可能だろう。
 金融セクターの強化も重要だ。郵貯銀行とメガバンクの再編や、公的資金を活用した地域金融の広域再編を行うことが必要になるだろう。国際競争に耐えられる資金量20〜50兆円規模の地域銀行群として集約しておかないと、弱い地域金融が東北経済の足を逆に引っ張ることになりかねない。
 当面は国債発行で賄うにしても、将来の増税は避けられない。これに国民の理解を得るには、ばら撒きを止め、徹底した行政部門の無駄を排除することが、まずもって重要だろう。われわれ政治家も議員定数の大幅な削減等を断行し、覚悟を示すことが必要になる。

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