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日本経済新聞夕刊-2008年4月16日掲載記事

こころの玉手箱B「YMOのレコード〜親友の活躍に留学先で焦る」

 「ああ、早く日本に帰りたいなぁ」。空を見上げ飛行機を見るたびに思った。日銀時代の1980年から二年間、米ハーバード大行政大学院に留学した時のことだ。

 私は日本語でも文章を読むスピードはそんなに速くない。それが毎日、大量の英語の資料を渡され、宿題に追われた。読み残しは、宿題が終わらないことを意味し、翌日の授業が億劫になる。膨大な時間をかけ必死で読み込んだ分、相当なストレスを抱え込んだ。

 当時、レーガン大統領が初当選。米経済はどん底だったが、日本経済は活況を呈していた。少し前にはハーバード大のエズラ・ボーゲル教授が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を刊行。世界的なベストセラーになり、日本型社会が世界のビジネスモデルの最先端としてもてはやされていた。

 ボーゲル教授とロバート・ライシュ教授の授業で、通産省の産業政策の優秀さをお前が講義しろと言われ、素人だった私が発表するほど、日本は世界から注目されていた。

 留学は家族も一緒だった。二年目からは妻もハーバード大教育学大学院の修士課程に入学した。炊事、洗濯、子育て。宿題だけでなく、家事の負担も増えた。試験近くになると、夫婦ともに勉強で頭がいっぱいになり、激しいバトルになったこともある。

 保育園に通う息子たちの迎えを二人とも忘れ、園から呼び出しを受けたこともあった。母親が送ってくる日本食を包んだ古新聞を広げて日本に関する記事を読むのが何よりの楽しみだった。そんな時だ。大学生協に張り出された一枚のポスターをみて足が止まった。

 高校時代の親友、坂本龍一がそのポスターに写っていた。「YMO」と書かれた新譜ポスターの下にはLPレコードが山積みされたいた。親友の目覚ましい活躍を目の当たりにしてうれしい半面、焦った。

 こちらは妻と幼い二人の子どもを連れて、アパートと学校の往復を繰り返す毎日。「俺はまだ学生なのに、坂本は世界的なスーパースターかよ」。立場があまりにもかけ離れており、望郷の念が一層募った。

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