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日経ネット「風向計」-2007年9月3日掲載

塩崎氏の本当の「心残り」

参院選での与党惨敗を受けた内閣改造で、安倍晋三首相は塩崎恭久官房長官を退任させ、後任に与謝野馨氏を据える決断をした。「本当は皆さんと一緒に国の将来をざっくばらんに語り合いたかった。その点だけが1つ心残りだ」。8月29日、首相官邸2階大ホール。塩崎氏は内閣官房職員への退任あいさつでこう漏らした。「絶え間ない挑戦の連続だった」と言葉を重ねる塩崎氏には、自分は誰よりも一生懸命に職務に取り組んできたとの自負があった。

 公務員制度改革や道路特定財源改革、成長力底上げ戦略に地球環境対策――。安倍政権が官邸主導で取り組んだ政策は、ほとんど塩崎氏が中心になって取り組んだ。週末は都内のホテルにこもり、官僚らを集めて議論を重ねた。深夜に「明朝までに資料を作ってほしい」と電話で指示を出したかと思えば、翌朝5時にはまた別の案件で注文を付け加えることも日常茶飯事だった。

 政策決定における官邸主導を掲げた塩崎氏は就任以来、「トップダウンで判断できる体制をつくる」として霞が関との対立をいとわなかった。先の通常国会で関連法が成立した公務員制度改革を巡り、天下りの一掃をめざす塩崎氏と、既得権益を失うことを懸念して反対する官僚らが激しい綱引きを展開。官僚がまとめた案を塩崎氏が突き返し、全く別の案に仕立てたこともあった。

 関連団体などへの天下り人事で霞が関の提案をひっくり返すこともしばしば。経済産業省が事務次官OBを中小企業金融公庫総裁に据えようとした案や、国土交通省が求めた成田国際空港会社社長を務める運輸次官OBの再任案などはいずれも拒否。民間人にすげ替えた。

 改造当日の27日午後。塩崎氏は衆院議員会館の事務所で新閣僚が次々と官邸に呼び込まれる場面を映すテレビを横目に、思いを巡らせていた。閣僚就任を要請する電話が官邸から来ることはないことは承知していた。さかのぼること数週間。官邸5階の首相執務室で首相と2人きりで向かい合った塩崎氏は「自分のことは気にせずに好きなようにやって下さい」と伝えていた。

 参院選の前から、閣僚の「政治とカネ」を巡る問題への対応などで「お友達内閣」の象徴とされる塩崎氏への風当たりは党内外で強かった。「政策通だが調整能力がない」との批判も浴びせられた。それだけに、道路特定財源改革では尾身幸次前財務相や冬柴鉄三国土交通相、公務員制度改革では自民党の片山虎之助前参院幹事長らとの協議を意識的に重ねた。周辺には「調整が苦手なのはその通り。だから自分なりに努力しているつもりだが…」と漏らすこともあった。

 本当の心残りは別のところにある。自分がレールを敷いた公務員制度改革や道路特定財源などの具体案づくりはこれから本番を迎える。永田町や霞が関で与謝野新官房長官は官僚との連携を重視する政治家とみられている。「霞が関から最も嫌われている政治家の1人」を自任する塩崎氏から与謝野氏への交代で、改革の中身が後退するのではないかとの懸念を塩崎氏はぬぐい去れない。

 例えば今秋から始まる税制の抜本改革論議。与謝野氏はすでに記者会見などで「財務省が中心となって議論をリードしていく」と発言している。経済財政諮問会議など官邸主導での議論を思い描いていた塩崎氏とは異なる立場だ。

 9月1日、塩崎氏は朝一番の飛行機で地元・松山に向かった。官房長官在任中にいつも一緒だった警護官(SP)の姿はもうない。


政治部 永澤毅